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大阪高等裁判所 昭和35年(う)1785号 判決

判  決

本籍

兵庫県城崎郡竹野町須谷九百九十番地

住居

大阪市東区淡路町一町目二十九番地

薬品販売業 谷垣藤四郎

明治三十三年一月二十八日生

右の者に対する公職選挙法違反被告事件について、昭和三十五年九月二十七日大阪簡易裁判所が言渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

検察官 田口猛、公判出席。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の理由は、記録に綴つてある弁護人植田完治名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

控訴趣意第一点について。

論旨は、「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」第一条による別表第四には大阪簡易裁判所は「大阪市北区に置く」ことに明定している。然るに現実は大阪簡易裁判所の法廷その事務一切は大阪市東区法円坂町一番地に在る。これは全く法律を無視した刑事訴訟法第三七七条第一号に所謂法律によつて定められた裁判所を構成せず及び同法第三七八条の不法に管轄を認めたことに該当し且つ同法第二八二条の規定に違反する外同法第三四二条に謂う公判廷になすべき宣言告知を法律に依る裁判所に非ざる裁判所と称する且つその公判廷と称する場所においてなした違法あるものと思料すると主張するものである。

なるほど「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」第一条によると、大阪簡易裁判所は「大阪市北区内に設置する」ことになつているが、現在大阪簡易裁判所の庁舎が大阪市東区法円坂町にも設けられて本件は同所の法廷で大阪簡易裁判所として審理裁判されたことは所論指摘のとおりである。しかし裁判所法第六九条第二項によれば、最高裁判所は必要と認めるときは、その指定する法律所定の場所以外の他の場所で下級裁判所に法廷を開かせることができる旨規定せられており、最高裁判所において己むを得ない必要上、大阪簡易裁判所の法廷を現在の場所で開くことを認めているものと解せられ、本件は同所法廷におはて法規所定どおり構成せられた裁判所により法規どおり審理裁判されたことは、記録上明らかであるから、原判決には所論の如き違法はない。従つて論旨は理由がない。

控訴趣意第二点の一について。

論旨は、原判決は、その判決書中に「理由」と記載して罪となるべき事実を摘示し、証拠標目を掲げ且つ適用法条を示したのみで、明らかに被告人が争つている公職選挙法第二四三条第三号に示された同法第一四二条第一項の領布なる行為をなしておらないとの抗弁に対し何等触るるところ無く、その争うところが認め難い旨の理由を明示しておらない。斯くの如きは判決に理由を附したものと称することを得ず、刑事訴訟法第三七八条に該当すると主張するのである。

よつて案ずるに、刑事訴訟法第四四条第一項によれば裁判には理由を附しなければならないが、同法第三三五条第一項によると、有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならないものの、これを示すことによつて同法第二項に該当する以外は理由として備わつているものと解せられる。従つて罪となるべき事実に関し被告人の争う点について、その主張を認めない場合に、その然らざる理由まで示す必要はないものと解する。ところで、原判決はその判決書によると、理由として罪となるべき事実証拠の標目、法令の適用を示しており、被告人の争う領布の点についても罪となるべき事実として郵送して領布したものとして判断を示している、被告人の領布でないと争うところが認め難い理由までは、原判決は示していないが、右主張は刑事訴訟第三三五条第二項には該当しないし、これを示さなくとも理由不備とは言えない。従つて論旨は理由がない。

控訴趣意第二点の二について。

論旨は、原判決の事実認定は誤認である。原判決は被告人が文書を領布したとするが、本件文書を郵送するための封皮を書き、これに郵券を貼付し及び郵便ポストに投函したのは、原審証人家菊治であり、本件文書を作成したのは同証人藤井諦美である。被告人は領布行違をしていない。なお領布行為とは不特定多数の人に認識せしめる所為であるが、本件は極めて小数の且つ特定の人々に対し知らしめようとしたもので領布でないと主張するのである。

しかし原判示事実は、その挙示証拠により優に認定できる。右証拠によると、被告人が本件文書の原稿を作成し藤井諦美に本件文書の印刷を依頼したもので、これを封書に入れ宛名を書き切手を貼布し投函したのは家菊治であるが、右は被告人の指示に基くもので、被告人が公衆電話会員名薄から投書したメモを家菊治に渡してこれにより宛名を書かしめ、封筒、切手代金として千円を同じく被告人から家に交付していることが認められ、被告人は本件文書を領布したと言うべきである。なお領布とは不特定又は多数人に対する配布を意味するもので、所論のように不特定で且つ多数人に対するものでなければならないものではない。本件では二十四名の多数人に対する郵送配布で領布に該当する。その他所論にかんがみ記録を検討しても原判決の認定に誤はない。従つて本論旨も理由がない。

よつて刑事訴訟法第三九六条により、主文のとおり判決する。

昭和三十六年三月八日

大阪高等裁判所第三刑事部

裁判長裁判官 三 木 良 雄

裁判官 古 川  実

裁判官 大 野 千 里

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